今回も世界標準の経営理論(入山章栄 著)から「ゲーム理論」の話題です。
数値例は上記書籍のP171の 注2を使用しています。
今回は1回目(クールノー均衡)と同様、2社の「数量競争」の局面を扱います。
違いは、2社が生産量を同時に決定するのではなく、意思決定タイミングが異なるケース(逐次ゲーム)となります。
目 次
数値例の解説
費用関数と需要関数
まず、企業1と企業2の費用関数と(逆)需要関数を下記の通り想定します。
企業1の費用関数 ⇒ C1=10Q1 ・・・① |
企業2の費用関数 ⇒ C2=10Q2 ・・・② |
需要関数 ⇒ P=100-(Q1+Q2) ・・・③ なお、Q=Q1+Q2 |
上記3つの関数は、1回目の解説(クールノー均衡)で想定した関数と同一です。
念のため簡単に解説すると、上式の①及び②における、Q1、 Q2はそれぞれ企業1、企業2の生産量、係数の「10」は1単位当たりの生産費用(=限界費用)を表しています。また、2社は同じ費用関数を持っています。
③は市場の(逆)需要関数で、縦軸に市場価格(P)、横軸に数量(Q)をとって、経済学のお馴染みのグラフで表現すると、右下がりの直線になります。この需要関数は、市場価格(P)が2つの企業の合計生産数量(Q=Q1+Q2)によって左右されることを意味しています。
企業1、企業2の利潤関数
次に企業の利潤を考えます。
この部分も1回目の設例(クールノー均衡)と同じなので、読み飛ばしていただいて結構です。
企業の利潤(π)=収入―費用です。
収入=市場価格×数量なので、「企業の利潤(π)=市場価格×数量ー生産費用」と表現できます。
企業1の利益(π1)と企業2の利益(π2)は以下のように表されます。
企業1の利潤 ⇒ π1=企業1の収入ー企業1の費用 ⇒ PQ1-C1=PQ1-10Q1 ・・・ ④ |
企業2の利潤 ⇒ π2=企業2の収入ー企業2の費用 ⇒ PQ2ーC2=PQ2-10Q1 ・・・ ⑤ |
ここで④、⑤に③(需要関数)を代入してPを消去すると、利潤は生産数量の関数として以下のように表されます。
π1=PQ1-10Q1={100-(Q1+Q2)}Q1-10Q1
= 90Q1-Q12-Q1Q2 ・・・ ⑥
π2=PQ2-10Q2={100-(Q1+Q2)}Q2-10Q2
= 90Q2-Q22-Q1Q2 ・・・ ⑦
繰り返しになりますが、ここまでは1回目の議論と同じです。
企業2の利潤最大化条件と企業2の反応関数
さて、ここからが議論の分かれ目になります。
同時進行ゲームでは、⑥、⑦をそれぞれQ1、Q2で微分して利潤最大化条件(=反応関数)を求め、連立させて均衡数量を求めましたが、今度は少し異なります。
[st-mybox title=”” fontawesome=”” color=”#757575″ bordercolor=”#BDBDBD” bgcolor=”#f3f3f3″ borderwidth=”0″ borderradius=”5″ titleweight=”bold” fontsize=”” myclass=”st-mybox-class” margin=”25px 0 25px 0″]企業1(リーダー)が数量を決め、その数量を受けて企業2(フォロワー)が数量を決める[/st-mybox]
と想定をします。意思決定タイミングが異なるわけです。
まず、(企業1の生産量に応じた)企業2の利潤最大化条件を求めます。
\[\frac{\partial \Pi{_2}}{\partial Q{_2}}=90-2Q_2-Q_1=0 \Rightarrow Q_2=45-\frac{1}{2}Q_1\]
ここから、企業2の反応関数: Q2=45-0.5Q1 ・・・⑦´ が求まります。
企業1の利潤最大化条件
企業1(リーダー企業)は⑦´(企業2の反応関数)を所与として、意思決定を行うので、企業1の利潤関数(⑥)は、以下のようになります。
π1= 90Q1-Q12-Q1Q2
=90Q1-Q12-Q1(45-0.5Q1)
=90Q1-Q12-45Q1+0.5Q12
=45Q1-0.5Q12・・・ ⑥´
⑥´を微分して利潤最大化条件を求めると
\[\frac{\partial \Pi{_1}}{\partial Q{_1}}=45-Q_1=0 \Rightarrow Q_1=45\]
Q1=45を受けて企業2は生産量を決めるので、企業2の生産量は(反応関数より)、Q2=45-0.5×45=22.5となります。
また、この時の均衡価格(P※)=100-(45+22.5)=32.5となります。
企業1の利潤(π1)=45・45-0.5・45・45=2,025-2,025×0.5=1,012.5、企業2の利潤(π2)=1単位当たり利益×数量=(32.5-10)×22.5=506.25となります。
同時ゲームと逐次ゲームの比較
同時ゲームと今回の逐次ゲームを比べると、企業1の利潤は900→1,012.5に増加しています。
先の意思決定(行動)することで、有利な状況を作り出すことができたことになります。
計算結果まとめると、下の表の通りとなります。
同時ゲーム | 逐次ゲーム | |
均衡価格 | 40 | 32.5 |
企業1の利潤 | 900 | 1,012.5 |
企業2の利潤 | 900 | 506.25 |
合計利潤 | 1,800 | 1,518.75 |
現実世界への適用
今回の設例は、企業1(リーダー)の意思決定数量を前提に企業2(フォロワー)が生産数量を決めるという時系列でした。
ところで、フォロワーがリーダーの意思決定を所与として行動するという逐次ゲームにおいては、「リーダーが所与となる意思決定(行動)を確実に行う」という前提があります。
例えば、リーダーが製品を増産するという選択肢を持っているとして、その増産に応じてフォロワーが自社の生産量を決定するような場合、フォロワーは「リーダーが確実に増産する」という確信が持てなければ、(リーダーが増産するという前提に立った)逐次ゲームは成立しません。
したがって、リーダーが「増産するぞ」と単なる「こけ脅し」(Bluff)をかけても効果がありません。
リーダーは信頼性の高いシグナル(例えば、工場用地取得のプレスリリースを行うなど)を行い、その「本気度」をフォロワーに知らしめることで、逐次ゲームが成立するわけです。
あるいは、常日頃のリーダーの企業行動から「この企業は一度やるといったことは絶対に実行する」という評判(レピュテーション)が確立していれば、フォロワーはリーダーの言明等を信じて自社の生産量の決定を行うでしょう。
しかし、首尾よく逐次ゲームに持ち込めたとして、実際には需要関数や相手企業の費用関数を正確に把握することはできません。
需要動向や相手企業のコストを見誤ったり、あるいは、相手企業の数値面に現れない動機(ライバル企業には絶対負けたくないというプライドから、赤字覚悟で徹底的に応戦してくる可能性)などがあり得るわけです。
単純化したモデルを現実世界にそのまま適用することは適切ではありませんが、「思考の出発点」として、あるいは、「考え方を整理する」という点においては理論やモデルはなかなか有用だと思います(同趣旨のことが、世界標準の経営理論(入山章栄 著)にも書いてあった記憶があります。)
経済学関連の「ゲーム理論」の専門書は、かなり精緻かつ厳密な記述スタイルになっている学術書も多いので、ビジネスパーソンが読みこなすのはやや厳しいと思いますが、以下のDexit教授の著作(翻訳本もあるようです)などは、ビジネスパーソンが興味深く読める本だと思います。
本日は以上です。
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