本日はゲーム理論の「ベルトラン競争」について、世界標準の経営理論(入山章栄 著)のP161 注7を参考に記事にしました。
前回のクールノー均衡は数量競争でしたが、ベルトラン均衡は価格競争となります。
目 次
数値例による説明
費用関数と需要関数
まず、企業1と企業2の費用関数と(逆)需要関数を下記の通り想定します。
企業1の費用関数 ⇒ C1=10Q1 ・・・① |
企業2の費用関数 ⇒ C2=10Q2 ・・・② |
企業1の需要関数 ⇒ Q1=100-10P1+10P2 ・・・③ |
企業2の需要関数 ⇒ Q2=100-10P2+10P1 ・・・④ |
上式の①及び②は、前回の「クールノー均衡」と同じ式です。
Q1、 Q2はそれぞれ企業1、企業2の生産量、係数の”10”は1単位当たりの生産費用(=限界費用)で、2社の間に差はありません。
③と④の需要関数は前回の「クールノー均衡」とは異なります。
P1は企業1が設定する価格,P2は企業2が設定する価格で、両社は価格を引き下げることで、相手企業から顧客を奪うことができる状況を想定します。
③を例にとると、「-10P1」は、P1が下がると企業1の数量(Q1)が増えるということを意味します。一方、「+P2」は、企業2が価格を引き上げると、企業1の数量(Q1)が増加し、企業2が価格を引き下げるtと企業1の数量(Q1)が減少することを意味します。
クールノー解では2社が(相手方の数量に応じて)生産数量を調整しましたが、「ベルトラン競争」では、価格競争を考えます。
企業1、企業2の利潤関数
次に企業の利潤を考えます。
企業の利潤(π)=収入―費用であり、「企業の利潤=生産数量×市場価格ー生産費用」と表現できます。
よって企業1の利益(π1)と企業2の利益(π2)は以下のように表されます。
なお、「ベルトラン競争」は「価格競争」なので、「利潤を価格の関数として表す(数量を消去する)」ことがポイントです。
企業1の利潤 ⇒ π1=企業1の収入ー企業1の費用 ⇒ π1=P1Q1-C1=P1Q1-10Q1 =P1(100-10P1+10P2)-10(100-10P1+10P2) =200P1-10P12+10P1P2-100P2+1000 ・・・ ⑤ |
企業2の利潤 ⇒ π2=企業2の収入ー企業2の費用 ⇒ π2=P2Q2ーC2=P2Q2-10Q1 =P1(100-10P1+10P2)-10(100-10P1+10P2) =200P2-10P22+10P1P2-100P1+1000 ・・・ ⑥ |
利潤最大化条件(微分)と反応関数
⑤、⑥をそれぞれP1、P2で微分して利潤最大化条件(=反応関数)を求めます。
\[\frac{\partial \Pi{_1}}{\partial p{_1}}=200-20P_1+10P_2-100=0 \Rightarrow P_1=10+\frac{1}{2}P_2\]
\[\frac{\partial \Pi{_2}}{\partial P{_2}}=200-20P_2+10P_1-100=0 \Rightarrow P_2=10+\frac{1}{2}P_1\]
まとめると、以下の通りとなります。
企業1の反応関数: P1=10+0.5P2 ・・・⑥´ |
企業2の反応関数: P2=10+0.5P1 ・・・⑦´ |
⑥´と⑦´を連立させて解くと、P1=10+0.5(10+0.5P1) ⇔ 0.75P1=15 ⇔ P1=15÷0.75=20
P1=20を⑦´に代入して、P2=10+0.5*20=20
したがって、P1=P2=20が「ベルトラン均衡」における均衡価格(P※)となり、その時の生産数量(Q1=Q2)は、100-10*20+10*20=100となります。
生産数量:100、価格:20の下、各企業の利益(π1=π2)=(20-10)*100=1,000となります(2社合計の利益は、1,000×2=2,000となります。)
より直観的な説明
ここからは、世界標準の経営理論には書かれていない内容です。
個人の解釈になりますので、解釈が間違っていればご容赦ください。
「ベルトラン競争」の意味
まず、企業1の需要関数を以下のように変形します。
Q1=100-10P1+10P2 ⇒ Q1=100-10(P1-P2)
変形後の需要関数を見れば一目瞭然ですが、企業2(相手企業)との価格差(P1-P2)が10以上開く(P1がP2より10以上高くなる)と、企業1は需要のすべてを失うことを意味します。
費用関数から各企業の限界費用(MC)は10なので、価格10未満では企業は生産しません。つまり、完全競争価格=10ということです。
例えば、企業1がP1=40という価格設定をするとどうでしょうか。
この場合、企業2は価格(P2)を30に設定すれば、Q1=100-10・(10)=0となるので、企業1の製品は1つも売れず、企業2がすべての需要を奪います。そして、企業2は1単位当たり(30-10=)20の超過利潤を享受できることになります。
これは企業1にとって望ましい結果ではありません。こうした望ましくない結果を招いたのは、企業1の設定価格(P1)が高すぎたからです。
一方、企業1がP1=15と価格設定をするとどうでしょうか。企業2はP2=5とすればすべての需要を奪うことができますが、限界費用(10)を下回ってしまうので、P2=10未満の価格水準で生産することはありません。
では、企業1は価格をどの水準に設定すればよいでしょうか。
ここで、先の計算例の計算結果を援用して考察します。
計算例では企業1、企業2の均衡均衡格(P※)は20でした。
まず企業1は、企業2が打ち出す最低価格ライン(想定P2)は10になると考えます。
しかし、企業1はP1=10とするのは得策ではありません。なぜなら、P1=10では、超過利潤が生じないからです。
例えば、P1=12とすれば、企業2に多少需要は奪われるものの、企業1は超過利潤を得ることができます。
企業2も価格を10より少し上げた方が利潤が増えるので、企業1と同じことを考えます。
結局、企業1は企業2が設定する価格(想定P2)と10以上差がつかないような最高価格(P1)を考えればよいわけです。
したがって、企業1の設定する価格(P1)は10(想定P2)+10=20となります。
企業2も企業1と同様に考えるので、結局P※=20となります。
微分(数学)を使わなくても、「ベルトラン競争」の数値例の意味は理解いただけると思います。
設例を拡張する
非弾力的な需要関数
設例とは別の以下のような需要関数を想定します。
Q1=100-2P1+2P2 ⇒ Q1=100-2(P1-P2)
この需要関数の意味するところは、企業2(相手企業)との価格差(P1-P2)が50以上開くと、企業1は需要のすべてを失うということです。
設例の需要関数は「価格差が10開くとすべての需要を奪われる」ものだったので、上記の需要関数の方が価格非弾力的となります。
なお、完全競争価格(超過利潤がゼロとなる価格)は同じく10です。
新たな需要関数を前提に、企業1は企業2との価格差が50以下となるように(できるだけ高い)価格を設定することになります。
したがって、企業1の設定する価格は10(完全競争価格)+50=60となります。
企業2も企業1と同じように考えるので、結局均衡価格(P※)は60となります。
実際に、上記の需要関数を用いて計算してみると、均衡価格(P1=P2)は60になることが確認できます。
元の設例よりも需要の価格弾力性が小さくなっているので、均衡価格も20 → 60と高くなっています。
価格競争が緩やかになっているわけです。
弾力的な需要関数
続いて、設例よりも需要の価格弾力性が大きい、次のような需要関数を考えます。
Q1=100-20P1+20P2 ⇒ Q1=100-20(P1-P2)
この場合は、価格差(P1ーP2)が5になると需要をすべて失うので、均衡価格は10+5=15となります。
元の設例より価格が低く、価格競争が激化していることが分かります。
こちらも実際に計算すれば、均衡価格が15になることが確かめられます。
まとめ
より一般化した形の Q1=100-α(P1-P2)という需要関数を考えます。
蛇足ですが、Q1=100-αP1+αP2 なので、設例ではα=10としていることになります。
ここで、α → ∞とすると、価格差(P1-P2)→0となり完全競争に帰着します(P1を企業1の価格、P2を企業1以外の価格と考えれば、2企業の事例で完全競争の状況を扱うことができます。)
この場合、企業の限界費用(MC)水準に価格が決まる(MC=P)ので、均衡価格は10です。
いずれにしても、価格差がなければ(P1=P2であれば)、企業1、企業2ともに需要量100単位を確保できるので、企業の最適行動は、「出来るだけ高い水準で相手と同一の価格を設定すること」になるわけです。
しかし、「ベルトラン競争」では(相手と協力できない非協力ゲームなので)、価格競争に陥ってしまうことになります。
本日は以上です。
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